沖縄の器

ざらっとした土なのにこんなに薄い。高台もなくてころんとしている。見れば見るほど不思議なボウル状の器です。これは沖縄・読谷村の大嶺實清さんの器です。読谷のいちばん奥にひっそりとあるギャラリー&工房。森の中のとても洗練された空間です。大嶺さんはアジアの焼き物に造詣が深く、研究の一環として、パナリ焼きなど古い手法の土器なども再現しています。
「この器は、デザイナーのヨーガン・レールさんが、布のように同じ薄さで器を作ったらどうなるだろうと言ったのをヒントに作ってみたんです」
なるほど! 本当に布で作ったみたいです。沖縄の海の色を意識したブルーのボウルに、北海道の行者にんにくのサラダを盛りつけてみました(07年3月24日)。プレートの方は分厚いけれど、こちらも厚さは均一。焼き締めっぽいけど、明るい土の色をしていて、うっすらと釉薬がかけてあるので、焼き締めほど気むずかしくない、素朴な印象。あまり盛り映えのしない厚揚げともやしの炒めものなどもおおらかに受け入れてくれます(07年3月16日)。
沖縄は琉球王国の時代から他国との交易が盛んで、太平洋の拠点、コスモポリスでした。ゆえに陶芸や漆器、織物の独自の文化が発達しました。数年前、沖縄のアーティストを訪ねるというとても幸せな取材旅行をしました。“伝統工芸”というと大嶺さんはきっとお引き受けくださらなかったでしょう。今を生きている、進化している彼は“伝統”という言葉ではくくれない人だから。
芭蕉布の平良敏子さんもそう。工房を訪ねると、ぐらぐら煮え立つ釜に山で摂ってきた染料となる木を入れて、糸を染める作業の準備をしていらっしゃいました。この方が人間国宝なんだと、正直驚きました。今は分業だけど「自分で最初からしまいまで織り上げるのがいまの夢」とか。芭蕉布の着物をまとって、国際通りを歩くととても誇らしい気持ちになるともおっしゃっていました。勇ましくてすてきな87歳!